青森地方裁判所 昭和54年(行ウ)1号 判決 1982年3月30日
原告 有限会社むつ浄化槽センター
被告 むつ地区環境整備組合管理者
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対してなした昭和五三年一一月二日付し尿浄化槽清掃業許可取消処分(以下本件処分という。)を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁とその理由
(一) 本件訴を却下する。
(二) 被告が昭和五三年四月一日原告に対しなした廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下法という。)九条一項の規定によるし尿浄化槽清掃業の許可に付せられた期間は昭和五三年四月一日から昭和五六年三月三一日までであり、右期間は既に満了している。したがつて、原告において本件処分の取消しを求める法律上の利益は存在せず、本件訴はその利益を欠くというべきである。
2 本案に対する答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の主張
一 本件訴の利益について
原告は、し尿浄化槽清掃業の許可期間満了日である昭和五六年三月三一日以前に被告に対し適法な許可更新の申請をしている。しかして、許可期間満了前に適法な更新の申請がなされている限り、期間満了によつて許可の効力は失われないものと解すべきである。したがつて、許可期間満了の日である昭和五六年三月三一日を経過しても、本件訴の利益を有すること明らかである。
二 請求原因
1 原告は昭和五三年四月一日被告から、法九条一項の規定により、次の内容のし尿浄化槽清掃業の許可(以下許可処分という。)を受けた。
(一) 取扱業務 し尿浄化槽清掃
(二) 期間 昭和五三年四月一日から昭和五六年三月三一日まで
(三) 取扱区域 むつ地区環境整備組合(以下組合という。)管内全域
(四) 条件
(イ) 法、同法施行令、同法施行規則及び組合の廃棄物の処理及び清掃に関する条例、同条例施行規則を厳守すること。
(ロ) 事業の全部若しくは一部を休止又は廃止しようとするときは、三〇日前までに被告の指示する様式によつて届け出なければならない。
(ハ) 届出事項(規則二条一項各号に掲げる事項)の内容を変更しようとするときは、被告の指示する様式により一五日前までに届け出て、被告の承認を得なければならない。
(ニ) 被告が環境保全上又はその他必要と認める指示事項を厳守すること。
2 被告は昭和五三年一一月二日付書面で原告に対し、法九条五項、七条一一項の規定により昭和五三年一一月六日限り許可処分を取消す旨通知した。
3 しかし、本件処分は違法であるので、本件処分の取消しを求める。
第三請求原因に対する認否
請求原因1、2の事実は認める。同3の主張は争う。
第四被告の主張
一 本件処分の取消事由の存在
1 法九条二項本文、同条同項一号によれば、市町村長は、し尿浄化槽清掃業の許可をするにあたつては、その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものでなければ、許可をしてはならないと定めている。これを受けて、同法施行規則六条本文、同条四号によれば、法九条二項一号の規定による厚生省令で定める技術上の基準に適合する能力とは、し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験とされている。そして、厚生省は、同法施行規則六条四号に定める「専門的知識、技能及び相当の経験」を有する者は、少なくとも社団法人日本浄化槽教育センターにおける教育を修了した者の具備する能力以上のものでなければならないとの見解をとつている。
2 原告が昭和五三年二月二五日被告に提出した、し尿浄化槽清掃業許可申請書には、浄化槽管理技術者として、畑中功、畑中良子、畑中昌子の氏名が記載されていた。
3 被告は、右三名の者が厚生者の定める技術上の基準にかなう能力を備え、且つむつ地区に居住していて常時技術者として勤務できる状態にあることが確認でき、その他の欠格事由もなかつたので、昭和五三年四月一日原告に対し、し尿浄化槽清掃業の許可を与えた。
4 ところが右技術者のうち、畑中良子、畑中昌子は昭和五三年七月一四日原告から解雇されて退職し、畑中功は同じ時期に発病(肺癌)して労働能力を失い、その頃原告は法定の技術者を事実上欠如した。そして、畑中功は同年一〇月一七日原告を退職した。こうして原告は、し尿浄化槽清掃業を遂行するに不可欠な技術者を名実ともに失なうに至つた。
5 よつて、原告は法九条四項、二項、七条二項四号ハの規定に違反する行為をしたものであるから、法九条五項、七条一一項の規定に該当する。
二 本件処分の手続の適法性
1 被告は、昭和五三年七月中旬ころ後に原告代表者となつた越後林利治および畑中良子、畑中昌子から口頭で畑中良子、畑中昌子が原告を退職した旨の事実を知らされた。
2 被告は同年八月中旬ころ畑中功が肺癌のため同年七月中旬ころから療養状態に入つている事実を知つた。
3 同年八月二三日付で畑中功に代り、越後林利治が原告の代表取締役となつたので、組合事務局長野村真人(以下野村事務局長という。)は、被告を代理し同年八月二六日組合事務所で原告代表者越後林利治(以下原告代表者という。)に対し、法定の技術者が事実上欠如していることを告げ、その弁明を求めるとともに、一刻も早く法定の技術者を雇い入れるよう指示した。
4 更に被告は同年一〇月一六日組合事務所で原告代表者に対し、法定の技術者の即時補充方を重ねて指示した。
5 被告は、同年一〇月一七日畑中功が原告を退社したことを知つたので、野村事務局長が被告を代理して、原告代表者に対し、電話で、来る一〇月二〇日までに間違いなく法定の技術者を補充すること、それができなければ許可取消の止むなきに至る旨を伝えたところ、原告代表者はそのように処置することを約した。
6 ところが、原告から何の報告もなかつたので、野村事務局長は同年一〇月二一日原告本店を訪れ、原告代表者に対し一〇月一七日の確約事項についてただしたところ、原告代表者は仙台市在住の長田氏を技術者として雇い入れるべく交渉中であるから、最終処分は同月二五日まで待つて欲しい旨懇願するので、同日までに必ず長田氏を組合事務所に同行することを条件に、許可取消処分を同日まで延すことにした。
7 被告が長田氏について調査した結果、同人は技術者としての有資格者でないことが判明したので、野村事務局長は同年一〇月二五日原告に対しその旨を伝えた。
8 野村事務局長は同年一〇月二六日組合事務所で原告代表者に対し、原告による度重なる二枚舌を責め、かくては被告として最終決断をせざるを得ない旨告げたところ、原告代表者は弘前市の弘前浄化槽センター社長八木橋達に頼み、何とか技術者を雇い入れるようにするから同年一〇月二八日まで待つて欲しい旨申し述べた。野村事務局長は同年一〇月二八日までに新たに法定の技術者を雇い入れ、むつ市に住居を移させ、本人に技術者としての資格認定書を持たせて組合事務所に連れてくるように告げ、もしこれが実行されなければ、今度こそ許可が取消される旨告げた。
9 右約束の一〇月二八日を経過しても原告から被告に何の連絡もなかつた。
10 青森県環境整備事業協同組合下北支部の組合代表者が同年一〇月三〇日組合事務所を訪れ、原告における技術者欠如状態の長期化、原告における業務遂行能力の欠如および業務遂行面における不誠実性を主な理由に、原告に対する許可の取消を求める陳情書を被告に提出した。
11 翌一〇月三一日野村事務局長は、原告代表者を組合事務所に呼びよせ、同月二八日までと確約した技術者雇い入れの件についてただし、弁明を求めると、原告代表者は八木橋博の社団法人日本浄化槽教育センターの修了証書と同人の同年一〇月三一日付むつ市へ転入した旨を記載した住民票写を示し、同人を法定の技術者として原告に雇い入れた旨答えた。
しかし同人を同行しなかつた点については言葉を濁らせて返答しなかつた。次に前記陳情書を原告代表者に示し、同書に書かれている事実の真否を確かめたところ、原告代表者は事実そのとおりであると述べた。
12 被告は八木橋博を雇い入れたという原告代表者の話に疑問を抱き、弘前浄化槽センターの社長であり、八木橋博の父親でもある八木橋達にいわゆる名義貸しなのではないのか、実際にむつ市に来てくれるのかどうか質したところ、同人は名義貸しは止むなく承諾したが、八木橋博は弘前浄化槽センターの職員で弘前市で毎日勤務させなければならない関係上、同人をむつ市に常勤させることははつきり断つた旨の返事がかえつてきた。
13 そこで被告は昭和五三年一一月二日原告に対する昭和五三年四月一日付し尿浄化槽清掃業の許可を取消し、書面でもつてその旨原告に通知した。
14 以上のとおり被告は、本件処分にあたつて、原告に対して、あらかじめ取消の理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えたもので、法九条五項、七条一二項に定める手続を履践した。
第五被告の主張に対する認否及び原告の反論
一 本件処分における取消事由の存在及び取消手続の適法性についての主張は争う。
二 被告は、原告に対して通知した昭和五三年一一月二日付書面で、本件処分の理由として、原告における一連の民事事件等の存在を掲げている。したがつて本訴において本件処分の理由として「法定の技術者の欠如」を主張することは、処分理由として同一性がないから、本訴における被告の右主張は許されない。また「一連の民事事件等の存在」が法七条一一項、九条五項の規定に該当しないことは明らかである。
三 原告は昭和五三年一〇月三一日付をもつて八木橋博を畑中功の後任の浄化管理士として雇い入れ被告に届出済である。したがつて、被告主張の法定の技術者の欠如という事実はない。
四 原告代表者は、昭和五三年一〇月二日から同月三一日までの間、数回にわたり、野村事務局長から事情を聴取されたが、その内容は技術者の在籍の有無、見通しに関するもので、許可取消に対する弁明及び証拠の提出については何らの指導も受けていない。したがつて、本件処分は、法七条一二項、九条五項に定める手続に違反している。
第五証拠<省略>
理由
一 本件訴の利益について(被告の本案前の申立)
1 請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。右事実によると、被告が昭和五三年四月一日原告に対しなしたし尿浄化槽清掃業の許可は、仮に本件処分に瑕疵があつて取消されたとしても、許可期間満了の日である昭和五六年三月三一日の経過によつて、その効力を失つたものである。
原告は、右許可期間満了前に被告に対し適法な許可更新の申請をしているから、許可期間の経過により許可の効力は失われないので、本件訴の利益を有すると主張する。しかし、廃棄物の処理及び清掃に関する法律には、し尿浄化槽清掃業の許可の更新について定めがないから、し尿浄化槽の清掃を業として行おうとする者は新たに法九条により許可の申請をしなければならない。したがつて、し尿浄化槽清掃業の許可が更新されるものであることを前提とする原告の主張は、その他の点について判断するまでもなく理由がない。
2 そこで、右し尿浄化槽清掃業の許可期間経過後においても、原告が本件処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有するかどうか(行政事件訴訟法九条)についてみる。法九条二項二号、七条二項四号ロの規定によると、し尿浄化槽清掃業の許可を取り消され、その取消しの日から二年を経過しない者(申請者が法人であるときは、その業務を行う役員を含む。)は、し尿浄化槽清掃業の許可を受けられない(欠格事由)ことに定められている。しかし、前記1の事実によると、原告がし尿浄化槽清掃業の許可を取消された日の翌日である昭和五三年一一月七日から起算して二年を経過した昭和五五年一一月六日の経過をもつて右欠格事由は消滅する。したがつて、昭和五五年一一月六日の経過した後においては、原告に本件処分の取消しを求めなければ回復できないような法律上の利益が残存するものとは認められない。
他に、原告が本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を有すると認める事由は見あたらない。
二 結論
以上のとおりであるから、原告の本件訴は、訴の利益を欠き不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田國雄 遠山和光 片瀬敏寿)